放物線


きみの描いた放物線
夜の僻地へと溶けて
小さな湖から
まるい草地に眠る猫は踊る
流れ星の欠片を含んで
硝子のコップに満たされた地球
砂漠で死んだ駱駝の夢と蝶を纏った有名女優のゴシップ
電波塔の隅で背を丸めた老婆に
無数の硝子片がきらきら光る
月の匂い
給水タンクに落ちた人影
アルコールランプの光に戸惑う理科室の渦
放課後の地球に操られた子供たちは
一定の速度で夜汽車を目指す
旅は北へと続く記憶の警笛
きみの笑顔は面映く
羊歯の葉に刻み込まれた葉脈の思い出を辿る
街角で拾ったパスポートの銀塩写真には
見知らぬ少年の透明な横顔
頬を赤く聡明な顔立ち
忘れた涙の終わりに溜め息ひとつ
パンタグラフに夏の影が揺れる
青い海を覗き込んで密やかな時の終わりを待つ少女の苛立ち
彼女の待つ手紙は少年の胸のなかで眠ったまま時間軸をずらしてもけっして届くことはない
それは太陽系の隅の絵空事
ちいさな光を灯す角砂糖の永遠
波音に飲み込まれる夏をいつまでも探している
遠くバスが山間を走り
きみが俯瞰して見る景色のなかで小さな少女の影が琥珀色の飴玉のように溶けてゆく
夢のなかで見るもう一つの夢
砂漠で転んだ駱駝の話
声帯を失った老オペラ歌手の最後の公演
観客のなかに死んだはずの父親の姿
きみの名前が記された墓石の前で手を合わせる見知らぬ女の涙
イルカの目に映る潜水艦の船底
深海を照らし記憶の海を泳ぐ光
音の言霊が夜の海の波音一つたたない深いところを何万マイルも超えてゆく

きみの描いた永遠が夜を染める
まるでそうなることがわかっていたかのように彼女は光の帯をしっぽに従える
遠く惑星の爆発
陸橋を走る電車の車輪が火花をあげ
軋んだ音を立てる
落下してくる星々の海
月の洪水へと飲み込まれる大気の漂流者たち
物語はいつも同じ言葉しか語らず
時間が夢に飲み込まれる速度で世界を硝子片のように砕いてゆく

やわらかな放物線を描いて
星と世界の隙き間に墜ちるきみ
懐かしい匂いと
草いきれ
聞こえる心臓の音
無数の記憶が闇間をめぐり
沈黙が生まれ
眠る波間の防波堤

コットン紙に描いたきみの放物線に沿って
ゆるやかに世界は傾斜してゆき
やがて
蒼い
蒼い
朝が来る


 
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