水曜日


水曜日に僕の夏は終わった
目を閉じると
八月に生まれたあなたが見える
僕は泣いていた
雨の降る夜の冷たい外気を鼻に吸い込みながら
僕は笑っていた
マーヴィン・ゲイは牧師である父に銃で撃たれて死んだ
1984年4月1日
エイプリルフールの日に
笑い話にもなりはしない出来事
あなたが笑っている
時を経てもなお大切な言葉は
あなたと
僕の心の中に一定の場所を確保しつづける
文字盤の上に
あるいは記憶の中に
あなたが落としていったもの
僕は覚えている
怒りに満ちたどうしようもない日々や
喜びに満ちあふれていた日々に
あなたが残していった大切な言葉

あの日
僕は川底から見上げたような景色に
溶け込んでしまった

あの日
僕の言葉は胸の奥につかえ
ただ空を切るだけであなたには届かなかった
夏の名残りを肌で感じ
夕焼けの赤にあなたの指の切り傷を探しても
見つからないことははじめからわかっていた


僕は何を感じているのか?
生温い風の運んでくる
言葉に出来ないこの気持ちは何を意味しているのか・・・

水曜日に僕の夏は終わりを告げる
目を閉じると
あなたの声や唇や
目や喜びや悲しみや
泣きはらした顔や
あなたの断片がぼやけて見える

・・・僕は泣いているのか?

いや
涙を流してなどいない
ただ秋近づく夏の夜の風に吹かれているだけだ
呼吸をし
この時代に生き
この場所に足を踏みしめているという事実を
きつく噛みしめているだけだ