残酷な休日


遠い海の果ての砂漠

夜な夜な訪れる

狩人たちの亡霊

鎖に繋がれた犬一匹

力なくよこたわる青い雨

神経質な猫の懺悔

テントの中で白骨化した青年の手紙が

今朝、届いた

使い捨ての紙コップに満たされた絶望のような文字の羅列に

女は戸惑う

燃やしたのは

約束のような

金木犀の香りのような

のどに引っかかった魚の小骨のような

青年の面影

煤けた紙片をゴミ箱へ放る指先に力がこもる

鏡台の上の口紅が微かに揺れ、

鏡に映った女のうなじが、じりじりとざわめく

まるで、深い海の底に沈み込んだかのような感覚

砂漠に横たわる狩人たちの亡霊と

巨大な犬の咆哮が頭の奥で蠢き絡み合う

女の引きつった唇の端から溜息が漏れ

夏の木漏れ日が小さな窓枠から優しく沁み込んでくる

「水浸しの毎日」

赤茶けた布の隙間から微かに見える砂粒の付着した白い骨片

孤独に手を伸ばした女の黒髪に付着した小さな羽虫の記憶

波の音に混じって響く青年の絶望と弛緩

砂漠に横たわる女の姿

「私が青年であってもおかしくはなかった…」

硝子細工のようなつぶやきが朝の光に吸い込まれてゆく

女の心の襞にゆっくりと溶けてゆく青年の残り香

窓のそと、穏やかな風に揺れる木々 

無邪気に戯れる子供達の姿

赤土のむっとする匂いに顔をしかめたかと思うと 

窓辺に肘掛けた女に笑顔で力強く手を振る

嬌声

鏡に映る遠い海

その先には何も無い砂漠

ただ青年の弱々しい声だけが、けだるい熱を孕んで響く


一体、どれだけの年月が流れて

どれだけの偽りと愛憎がこの躰を通り過ぎて行ったのか…


わからない

永遠にわからない

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